20130101
しかし、何もしなくていいというのは退屈でたまらないものだ。
マルコの部屋でごろごろとして数日。マルコの部屋の本はどれもこれもつまらなくて読む気もしないし、時間を潰すものもない。
寝るのは大好きだが、こう毎日寝るだけだと全く疲れもしないし、延々寝れる筈もなかった。
「つまんねー」
何度目かわからない文句を口にして、ごろんとベッドの上を転がる。
仰向けの寝転んで、天井に向かって手を伸ばすと、やはり記憶の中よりもずっと小さく細い腕が視界に入ってため息をつきたい気持ちになる。
だけれど、服はサッチが倉庫から子供用を探して来てくれたので、動きやすくはなった。
しかし女の子用らしきそれは、やたらデザインが可愛らしく、上着のケープに至ってはフードにウサギらしき長い耳までついていた。
船はそろそろ冬島の海域に入る辺りを航海しており、寒さには強い自分でも大人用のぶかぶかの服ではさすがに寒く、しかも動き辛いのには参った。なので、文句を言わずに大人しく着こんではいるが。
子どもになった翌日、ふらりとこの服装のまま食堂に赴いて、ナースに可愛い可愛いと髪を結ばれたり、抱きしめられたりと寄ってたかっておもちゃにされた。見かねた隊員がマルコを呼んでくれて、漸く解放された時には心底ほっとして、マルコにぎゅうっと抱きついてしまった。
それを思い出すと、この部屋から無防備に出るのは躊躇われて、マルコの言いつけ通り、この部屋で大人しく暇をもてあましているのだ。
夜戻って来たマルコに、退屈でたまらないと訴えると、またか、という顔をしながらも、何か暇を潰せるものを考えると、約束してくれた。
ベッドに座った膝ににじにじと乗りあがる。マルコはやはり仕方ないなぁという調子で、脇の下に手を入れてよいしょっと持ち上げると、膝の上に向かい合わせで載せてくれた。間近に迫った顔に、少し頬が熱くなる。
「……暇を潰せるものってなんだよ」
もう然程文句はなかったのだが、特に話題が思いつかずそう文句を告げると、彼がふっと笑う。目じりに少し皺が寄って、だけれど好きな笑顔だなぁと思う。その頬に手のひらをぴたりとくっつけると、彼がふっと笑って手のひらにキスをくれた。その唇の柔らかい感触にどきりとする。きゅっと眉を寄せると、彼が、ん?と不思議そうな顔をした。
「眠いのか?もう寝るかよい?」
解ってない、と思う。
「……眠くない」
本当に、マルコは解ってない。
「……ご機嫌斜めだねい」
「……」
体は子どもでも、心は大人なのだ。しかも若い男と来ている。目の前に恋人がいて、ひたすら我慢しろってもの酷い話だろうと思う。
「もういい、寝る」
拗ねたようにそう告げて、ベッドにごろんと転がったが、布団を掛けてくれる手が優しい。すっかり冬島に入ったせいか空気が冷たくて布団はあたたかだった。
しかし、いままでそんなこと、して貰った事があっただろうか。部屋に戻って寝ろ、としょっちゅう言われていた。今は子どもだから。だから、やさしくしてくれるのか。元々、恋人なのに。
なんだか悔しくてぎゅっと目を瞑ったが、隣に横になったマルコの体温が触れると、その暖かさに意識がゆるゆると解けていつの間にか眠ってしまったようだった。
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