20130101
目覚めると、世界が真っ白だった。
少し頭を動かしてみて、そこがシーツの中なのだと気づく。
もそりとシーツをかき分けてぷはっと顔を出すと、そこには見慣れたマルコの顔があった。そっとその頬に手を伸べて、そしてふっと気づいた。
手が、ひどく小さく見える。
だけれどそのままマルコの頬に手のひらで触れ、すす、となぞるとマルコが数度まばたきをして、目を開けた。
そして、自分を見て酷く驚いた顔を、した。
食堂で、椅子に座ってみなに囲まれている現状は、あまり気持ちのいいものじゃなかった。隣に座っているマルコは、涼しい顔で珈琲を飲んでいる。
自分は何故か甘いココアを貰った。いつもよりもカップを重く感じて、両手でカップを持って飲んでいる。
「えー、ほんとにエース?」
「エースが産んだんじゃねえの?」
「いや、でも可愛いな」
周りからざわざわと好奇の視線が注がれている。
ぶかぶかのTシャツが肩からずり落ちそうになるのを手で時折戻しながら、椅子の上に所在無く座っている。
よく解らない、けれども。
マルコはすぐに船医の所に連れて行ってくれて、あれこれ質問に答えた。
そこで漸く、自分の現状がしっかりと把握できた。ポートガス・Dエース。年齢十九歳、の筈が外見年齢はおそらく十歳前後くらい。体が小さくなるのと同時に、能力も、タトゥーも消えてしまっていた。しかし記憶や意識の相違は見られず、きちんと十九歳のままだ。そう中身はそのまま、体だけが若返ってしまったようだった。
すぐに集まってきたナース達に可愛いとおもちゃにされそうになったので、慌ててマルコと食堂に逃げて来たのだ。でも、ここでもまた船員達に囲まれてしまっているのだが。
「ほらほらどいて〜」
人を掻き分けてサッチが現れた。
「わー、ほんとに可愛くなっちまって」
サッチが明るく笑う
「タトゥもねえの?能力も?」
「……うん」
素直に頷くと、彼がまた明るく笑った。
「まあ、新世界だ。そんなこともあるだろ?」
「……」
その明るい笑顔に少し救われた気持ちで頷くと、サッチが髪をくしゃくしゃと撫でた。
「まあ、暫く休暇でももらったと思って休めばいい。なあ、マルコ?」
「……ああ」
その声に漸くマルコをちゃんと見たが、マルコは特に何の表情も浮かんでいなくて、いつもと同じように見えた。
「暫くマルコが面倒見ろよー」
「えっ」
だけれど続けられたサッチの言葉に、マルコよりも先に驚いた声をあげてしまって、視線が集まりはっとする。
俺も面倒見たい、と言う声がさわさわと周囲に広がって、よく解らない気持ちになる。
思わず俯くと、頭上で会話が続けられる。
「だって、マルコと一緒にいたんだろ? また何かあったら困るんだから、お前が面倒見ろよ」
サッチがきっぱりとそう告げる。マルコはなんと答えるのだろうか。ドキドキした。
「……わかったよい」
思ったよりもずっとあっさり彼は了承すると、立ち上がり、すうと手をこちらに延べた。
「……行くよい、エース」
「……おう」
その手を掴むと椅子から立ち上がる。思ったよりも椅子が高いからだろうけれど、そのような接せられ方にはなんだか慣れなくてどきどきした。
「さあ、みんな解散〜! エースの面倒はマルコが見るから、おまえら構うなよー」
まるで牽制するかのように、ちょっと強めのサッチの声が食堂に響く。
なるほど、うんざりした気持ちだった俺を気遣ってくれたのかと漸く気づく。
手を引いてくれるマルコの横顔を見上げながら、少しだけほっとした気持ちになった。
|