黑猫寫眞館

黑猫寫眞館〔14〕

扉を開くと、其処は食堂のような場所になっており、大勢の人間がひしめきあって飯を食ったり何事か話しているようで、大層な喧騒だった。
呆気に取られて立ち止まる。マルコは少し歩を進めたが、着いてきていないのに気付いたのか、彼もすぐに立ち止まった。
「ほら、ドア閉めろよい」
振り向いた彼にそう告げられて、慌てて扉を閉めると、一歩中に踏み入る。人の視線が集中し始める。
目の前に立つマルコがニヤリと笑った。
「ようこそエース、白ヒゲ怪盗団に」
少し響く声でマルコがそう告げると、さあっと皆の視線がこちらに集中した。
たくさんの目に一斉に見詰められ、思わず何も言えずに固まった。状況が掴めない。
白ヒゲと言う事は、ここは本拠地って事なのか？何故俺を連れて来たのだろうか、と動きが鈍り、固まりそうな頭でぐるぐると考える。
「行くぞ」
そう短く告げ、再び歩きだした彼の後を慌てて追う。
テーブルの間を縫うように歩く間も、人の視線が突き刺さって来る。嫌な感じの視線ではないが、こうも見られると落ち着かない。
不意に目の前に不思議な服を着た男が現れた。それは着物、というやつだろうか。
紅を差してはいるが、確かに男だと解る。しかし美しい人であった。
彼はくくっと笑うと、白い指を延べる。思わず立ち止まると、つつっと顎を撫でられて瞠目した。
「へえ、可愛いじゃないか」
彼がマルコにそう告げて笑う。
「触るな」
「なんだ、珍しいな？　もうてめえのもんにしたのかい？」
「なっ」
その言葉に意味がすぐに知れて、かあっと赤くなってしまった。何故知っているのだろうか。
慌てた俺を彼がちらりと一瞥する。
「ふうん、いいねえ、いい表情をするよ」
「もう、あっちいけ、イゾウ」
マルコがしっしっと手を振ると、彼がははっと楽しそうに笑った。
「はいはいっと。大事なんだねえ」
彼と入れ替わりにマルコの向こうからまた違う人が近づいて来たようだった。
「よう」
「あ、サッチ！」
ひょこりとマルコの影から現れたのはサッチだった。彼は、素直に好きだ。ご飯も、おいしかったし。
今日も派手な柄のシャツに、ラフなズボン、そしてリーゼントだけはきっちりとしていた。そして明るく笑って告げる。
「エース！相変わらず可愛いなー」
「可愛くねえし」
笑ってそう返すと、彼もくくっと笑う。
「ケーキ食うか？」
「食う！」
即答した俺に、サッチがにかっと笑ってくしゃりと頭を撫でてくれた。少しびっくりした。
警戒しなくてはならないのは解っている。
だけれど、サッチだとなぜか緩んでしまうのだ。
それに、食べ物と聞いては捨て置けない。だってこの間貰ったサンドイッチも大層美味しかったのだ。それを思い出すとごくりと喉が鳴った。
「素直な子はかわいいねえ。さ、ここ座って」
促されるままに目の前の椅子に背を押されて座る。
マルコを見ると、彼も渋々机を挟んで目の前の椅子に移動した。そしてどすんと座った。
「さ、召し上がれー」
サッチが笑って、ケーキの乗った皿を差し出してくれる。横でお茶を淹れてくれるのを待てずにフォークを掴んで口に入れた。
「なんだこれ、うまい！」
「だろ？俺様特製フォレ・ノワールだぜ？」
彼が香りの良いの紅茶を差し出しながら笑って告げる。
「……フォレ？」
「ま、さくらんぼの入ったチョコケーキってとこかな」
「やっぱりサッチが作ったやつ、うめえな！」
「だろ？俺天才だから」
「ほんとうまい、天才だぜ」
もぐもぐと口に運びながら笑って答える。
「エース」
マルコが不機嫌そうな声で名を呼んだ。ちらりと視線を移すと、むっとした表情の彼と目が合う。
「……」
「それ食ったらあっち行くよい」
「やだ」
「エース」
急に不機嫌そうな顔をされて、思わずこちらもつっぱねると、サッチがくくっと笑って髪を撫でた。
「行ってやりなよ、エースくん」
「……」
その言葉に思わずサッチをじっと見ると、彼が困ったように笑った。
「また新しいお菓子作っといてやるからさ」
「……ん、サッチがそう言うなら……」
「サッチ」
マルコの鋭い声が飛ぶ。
「隊長さん怖いよー」
サッチがそう告げておどけると同時に、立ち上がったマルコにぐいと腕を掴まれた。
「行くぞ」
「サッチごちそうさま！」
「おうよ！」
お茶もひとくち飲んで、漸く立ち上がると、彼がぐいと腕を引く。
「なんだよ、マルコ！」
文句を告げたが彼はそのまま歩き出す。ぎゅっと腕を掴まれたままだ。
掴まれているところがどくどくとする。だけどそれを悟られないように大きな声を出す。
「マルコ、命令すんなよ！」