in the dark
目覚ましの音で、目が覚めた。
だが、所在のわからぬそれを止めるのは、朝から大層苦労した。
まず手を伸ばすと、指先を引っ掛けて床に落としてしまった。
ベッドに下に入り込んだそれをなんとか探し出し、漸く止めた時にはなんだかすでに疲れてしまった気持ちだった。
そして、ゆっくり立ち上がると、身支度をする。
短くない期間を暮らした船内だ。どこに何があるかは把握しているつもりだけど、見えないとなると話は別だと思い知った。
それでもなんとか着替え終わり、壁伝いにとりあえず食堂に向かう。
途中でサッチが心配して着いて来てくれたが、早く慣れたいから、と手を引かれるのは断った。
しかし歩きにくい。ものすごくゆっくりでしか進めていない気がする。それすらも、わからないのだけれど。
そして、とりあえず、食べ物を食べるのも一苦労だ。
フォークはどこを刺しているのか皆目見当がつかないため、直ぐに諦め、素直に手で掴んで食べ物を口に運ぶ。
サッチがそれを気遣ってか、サンドイッチやフライドポテトと言った掴みやすいものを持って来てくれた。
「エース、ほっぺにめちゃくちゃついてんぞ?」
新たなお皿を持ってきてくれたらしいサッチが、呆れたように呟く。
「…んん?」
「まあ、いつものことか」
そう告げると彼が笑う気配。そしてナプキンらしきもので口の周りを拭いてくれる。
「ほれエース、右手の所におにぎりの皿置くぞー」
「おう、ありがと!」
「あ、エース、今日は会議の後、午前中は部屋で待機な」
「えー」
「仕方ねえだろー。午後からは検査と、あとそれが終わったら、マルコに会わせてやるから」
「…おう」
食事を終えると、ふとサッチが肩に触れた。
「ん?」
「エース、シャツ裏返し」
「え、そうなのか?」
「そうだよ、はいばんざーいして」
「んー」
素直に手を上げると、サッチが服を脱がして直し、また着せてくれた。
そして着替え終わると、サッチに手を引かれて会議のテーブルについた。
誰がどの声なのか予想しながらなんとなく聞いているだけで、それは終了した。マルコはいないようで、そして、自分に振られた仕事はひとつもなかった。
少しがっかりすると、部屋に帰る案内は断り、一人でもそもそと部屋に戻った。
時間をかけてなんとか自室に戻り、ベッドに腰掛ける。
しばらくそのままぼんやりしていたが、見えないと出来る事なんてほんと限られていることに思い至る。
とりあえずごろりとベッドに横になると、そのまま眠ってしまったようだった。