in the dark



エースが目を開けた時、世界は夜だと思った。

でも、それは違うのだとすぐに気付いた。頬があたたかいのだ。
おそらく草原に寝ころんでいるのだろう、右側の頬にはざわざわとした草の感触。
そして、左の頬には日の光が当たっているあたたかさを感じた。
だけれど、目をいくら見開いてみても、何度瞬きをしても、そこにはただ暗闇が広がっているのみだった。
ぼんやりと記憶を辿る。
たしか、新世界の小さな島で、マルコと二人で盗賊を追っていて、だけれど追い詰めた屋敷の奥、そこには占い師のような男がひとりいるのみだった。
やけに薄暗い部屋。赤いびろうどのカーテン。薄く煙るように焚き染められた、濃い香のかおり。
男は逃げもせず、椅子にゆったりと腰掛けてこちらを見ていた。
そうだ、対峙した時に、男が何か変なことを言っていた。
たしか――

『一番大事なものを貰おう』

そこで記憶は途切れていた。

身を起こしてはみたが、平衡感覚が掴めず立ち上がるのも大変そうだ。
しかもここがどのような場所かも解らない以上、下手に動くのは危ないかもしれない。
どうしようかと思案していると、微かな音が聞こえて来た。足音だ。
どんどんと近づいて来る足音に、思わずぎゅっと身を固くした。
「エース!」
しかし不意に名を呼んだその声に、はっとそちらの方に顔を向ける。
「……サッチ?」
「おう、エースおまえ心配したぞ!」
走る足音と共に、声がどんどん近づいてくる。それはすぐ目の前で止まり、しゃがみ込んだようだった。
「エース?」
「……おう」
近くなった声のほうに、顔を向ける。
「……おまえ、目が見えないのか?」
頷くと、息を飲む気配がした。