あおいとり ことり〔12〕




寝室に入る頃には、少し夜目にも慣れて来ていた。
室内に入り、後ろでにドアを閉めると、ベッドの上に彼がパジャマ姿で座ってこちらを見ているのがぼんやりと見えた。
近づいて行ってベッドに腰掛けると、彼が大げさな程びくりとした。
「エース」
できるだけ優しくその名を呼ぶ。
「……」
彼が無言のまま、ベッドの上をじり、と少し近づいてくる。
頬に手が触れた方に顔を向けると、不意に唇が重なった。触れるだけで離れていくそれを、後頭部に手を回し押し留める。
数度触れて、唇を舐めると、彼の唇がうっすらと開いた。舌を差し入れ、逃げる舌を追って絡めると、彼の息が上がって唇の端から漏れる。
空いてる手のひらでするりと彼の首から背にかけて撫でると、彼が少し体を強張らせた。
宥めるように咥内の敏感な部分を舐めると、漏れる彼の吐息に甘い声が混じる。
「…んっ、はあ…」
それが恥ずかしいのか、彼が体を少し引く。
そのまま軽く体を押すと、彼がとすんとベッドに横になった。そこにぐいと乗り上げると、彼がぎょっと目を見開いた。
その髪を優しく撫でてやる。
「エース」
「……せんせい」
彼の声が少し甘い。ふっと笑って額に口付ける。やはり少しびくっとした彼の頬を、やさしく撫でた。
「おまえ、初めてだねい?」
「わ、かんのか」
「だてに年はくってねえよい」
「……」
「別にいいじゃねえか」
そう問うと、彼の目が揺れているのが解った。
「ううん、初めてなのが恥ずかしいんじゃねえ」
そう告げて彼がふるふると頭を振った。
「……じゃあ、どうしてだ?」
そう問うと、彼はきゅっと唇を噛んで少し迷っているようだった。だけれどゆっくりと口を開く。
「……だって俺、マルコ先生のこと、好きになっちゃったみたいなんだ……先生は、こういうの困るだろ……」
最後は消え入りそうな声だった。
そうじゃないかとは思っていたけれど。
改めて彼の口から言われると嬉しかった。
「エース」
「……うん」
真っ直ぐこちらを見ている目は、夜の闇の中でもきらきらと光って見えた。
彼が愛しい。それだけで何も怖いものがないと思うほどに。
頬に手を触れて、顔を近づけると彼がすうと目を閉じた。
その目蓋に口付けて、そばかすの上に口付けて、そっと唇に触れた。
「エース、好きだよい」
「……!」
彼がはっと目を開いた。
それ以上何も言わせないで、今度は深く口付けた。
口付けながら、片手で彼のパジャマのボタンを外してゆく。
首筋に唇で触れると彼が少しびくりとした。
宥めるように舌を這わして行く。胸の突起に舌が触れるとくすぐったいのか彼が身じろいだ。
そのまま舌先で舐めて軽く噛むと彼がふるふると頭を振った。ぱさり、と軽い音がする。
だけれど嫌ではないのだろう。下半身に触れると、そこはじわりと熱を持ち始めていた。
手のひらで軽くすりあげると甘い息が漏れる。
「……んっ、ん」
すぐに硬度を増したそれに、ズボンに手を差し入れて直に触れた。
「……あっ」
すでに先走りで濡れているそれをゆっくりと擦ると彼が手の甲を噛んだ。
その手の上から口付ける。
「……?」
目を開けた彼の口元から、その手をそっと外させる。
跡がついてしまった手の甲にもそっとキスをした。
「……跡がついちまうだろい?」
「……声、やだ」
「嫌じゃねえよ、もっと聞かせろい」
「……」
困った顔をした彼に笑って軽く口付ける。
「大丈夫、感じてくれて嬉しいよい」
ふい、と反らした頬にも口付けて、手の動きを再開する。
「…ふっ、ん…」
彼は拗ねては見せたが、今度は素直にそのまま息を吐く。
その様子に少し笑んで、軽く口付けると、彼のボタンを外し終えたシャツをするりと脱がして床に落とした。
そのままズボンに手を掛けると、彼が少し抵抗を見せたが、ズボン濡れるよい?と囁くと、真っ赤になって抵抗を止めた。
下着ごとズボンも取り去り床に落とすと、上体を起こし、自分もさっと脱いで裸になる。
裸で抱き合うと、直に彼の肌を感じる。そのなめらかさと暖かさが気持ちよくて、再度その体にキスを降らせた。
首筋から胸、臍と舐めると彼が甘い息を吐く。そのまま下半身に屈み込んで彼自身に口付けると彼が抵抗を見せる。
「……気持ちよくしてやるよい?」
そう告げてべろりと舐めると彼がぶるりと震えた。そのまま口に含んで舌で嘗め回す。
「……あっ、や、せんせい…っ」
彼の手が髪に触れる。そのままくしゃりとかき回されるような仕草で撫でられる。
「だめだ、いっちゃ……」
彼の言わんとしていることは解ったが、無視して強く吸い上げると、彼があっと言う間に達した。
「……あああっ」
びくびくと体を震わせて長く吐き出す。飲み込んで、体を起こすと、彼が目元を赤くしたまま睨んでいた。
「先生のばか……」
「おまえは可愛いよい」
額に頬に口付けると、彼が少し困った顔で笑った。
ベッドの隣にあるローテーブルに手を伸ばして、引き出しからチューブを取り出す。
「……?」
不思議そうに見ている彼に少し笑って髪に口付ける。
「これでおまえを慣らすんだよい」
そう告げるとまた可哀想な程赤くなってしまった。
足を持ち上げると、不安そうな顔のまま、だけれど抵抗はしない。
「大丈夫だ、力抜いてろよい?」
「……ん」
指に潤滑油を取ると、彼の後ろに触れる。びくりとしたのが伝わったが、そのままじっとしている。
くるくると円を描く様に塗りこみ、さらに量を増やして指を中に挿れる。
ゆっくり出し入れをしたが、中は酷く狭くて熱い。
男相手にするのは経験豊富とは言い難い。女性と同様には行かないのは解っていた。
だけれど、それでも彼が抱きたいと思う。
暫くすると、ようやく指が自由に出し入れできるようになる。潤滑油を増やして指を増やす。
「……んっ、はあ……」
彼が息を吐いた隙にぐっと押し込むと彼が声を上げた。
「ああっ…!」
思わず、と言った様子に彼がすぐ真っ赤になる。
「ここかよい?」
「……やっ!」
彼の反応した辺りをぐいと撫でると彼がびくびくと震えた。
「んっ、何……」
少し怯えた様子の彼に口付けて宥める。
「大丈夫だ、おまえの気持ちいいとこ触ってんだよい」
「……気持ちいい?……ちょっと怖い」
「大丈夫だから、任せろ」
「……ん」
彼が素直に頷く。
さらに指を増やして中を探ると、彼がきゅっと腕に爪を立てる。したいようにさせて中を十分にほぐすと、ずるりと指を抜いた。
彼はすっかり汗をかいて荒い息を吐いている。うっすら開けた目が色っぽい。
足を持ち上げて片方肩に掛けると、すっかり立ち上がった先を宛がった。
「……挿れるよい」
彼は答えなかったが、するりと首に両腕を回すを、引き寄せてちゅ、と口付けてくれた。
ぐっと体を進めると、彼がぎゅっと首にしがみつく。
その中の熱に一気に押し込みたい衝動に駆られたが、ぐっと堪えて軽く前後に揺らしながら押し込んでゆく。
「あっ、あっ」
ぐっぐっと押し込むたびに彼が甘い声を漏らす。
痛いからだろうか、徐々に彼の体が逃げるように押しあがってゆく。彼の手が首からぱらりと離れてシーツをくしゃりと掴んだ。
腰を掴むと、ぐいっと下にずらす。その拍子に中を擦ったようで、彼がああっと切ない声をあげた。
その声が溜まらず、ぐい、と彼に圧し掛かる。彼の手が自分を探すように再び伸ばされる。今度はぎゅっと強く背中に回される。
そのままの勢いでちくり、と爪が立つ感覚されも愛しい。
彼のいい所を狙ってぐいっと腰を押し込んで行く。
「あっ、ああっ」
彼の声が甘い。そのままぐっと最後まで押し込むと、はっと息を吐いた。
中が馴染むように動きを止め、彼の頬を撫でると、涙で濡れていた。だけれど目の周りは赤く、熱に浮かされたような、酷く扇情 的な顔をしている。口付けると、彼の舌が答えた。
「ん……はあ……」
深く舌を絡めると、唾液が口の端から伝った。少し顔を離すと、彼がそれをぺろりと下で舐める。ぞくりとした。
「せんせい……」
彼が少し腰を揺らす。気持ちよさが腰からじわりと広がる。
「痛くねえか?」
「ん」
「……動くよい」
彼が少し頷いたのを確認して、律動を開始する。
最初は彼の体を気遣ってゆっくりと動かしたが、その狭さと熱の気持ちよさに段々と大胆な動きになってゆく。
「あっ…ああっ…せんせ…」
彼が切ない声で名を呼ぶ。痛くはない様子にほっとしながら、ぐいと、彼のいい所に当たるように動くと、きゅうきゅうと締め付けて来る。
「あっ、はあっ、んっ……」
彼の声がひっきりなしに漏れる。
「だめっ、せんせ……」
彼の前に触れると、そこはまたしっかりと勃ち上がっていた。片手でゆるゆると刺激すると、中がびくびくと震えて締め付けてくる。
その気持ちよさに腰を打ちつけながら先端に爪を立てると、彼がびくっと震えて吐き出した。
その反動の締め付けに、彼の奥に一気に放った。



気を失った彼の体を丁寧に拭き清めて、パジャマを着せたが彼はくたりとしたまま目を覚まさなかった。
しかし彼を布団に入れ、隣に入るともぞもぞと抱きついて来て思わず笑みが漏れた。そのまま彼をやわらかく抱きしめて眠った。
彼の体温はじんわりと暖かく、そのままいつぶりか解らないくらい深い眠りについて、気付くとすっかり朝になっていた。