魔法使いと夜



その夜は、早めに就寝することにした。おやすみを言って、別れて部屋に入る。
寝具に横にはなったけれど、あれこれ考えると眠れず、ごろりとまた幾度目かわからぬ寝返りを打った。
そしてふと、その気配に気づいた。いつからなのだろう、と思う。
「……クリア? いるんだろ?」
呼びかけると、少しの間の後、ドアの向こうに立っている気配が答えた。
「蒼葉さん……入っても、いいですか」
「いいよ」
ギイ、とドアが開いてクリアがおずおずと入って来る。だけれど、ドアの所に立ち尽くしたままだ。
起き上がると、彼に近づいて、目の前に立つ。
その頬にそっと触れると、彼がふっと目を伏せた。
「僕は……不安です。人ではないことを、知られるということが、人とは違うということが」
「……」
「蒼葉さんは、僕が……怖くないのですか?」
「怖くなんてねえし」
「……触っても、いいですか」
その不安な心を感じると。何を差し出しても惜しくない、と思った。
「触りたいなら、いくらでも触らせてやる」
その腕を引いて、少し驚いた顔をしている彼に口付けた。
口付けを交わしながら、寝具に縺れる様に倒れこんだ。はっとクリアの腕を心配したが、彼が大丈夫というように頬を撫でてくれた。
街に行けば、何があるかなんて、少しも解らなかった。彼が直るのかも。戻って来れるのかも。
だから、彼がそれを望むのなら、なんでもしてあげたかったし、自分も彼に触れたい、と思った。
首に腕を回して口付けると、そのシャツのボタンをひとつづつ外して行く。自分もシャツの裾に腕をやると、ぱっと脱ぎ去った。
正直、その行為にはそんなに知識があるわけじゃなかったけれど。
彼が右手手袋を取り去ると、白い肌が目に入る。その手が、ゆっくりとやさしく肌に触れる。大事に大事に。そして首筋に口付けられると、ちり、とした感覚が肌に感じられた。
舌がゆっくりと肌を伝う。それはねっとりとしていて、胸に触れるとぞくぞくと背筋が震えた。
首の横に突いて体を支えているクリアの手が気になる。大丈夫なのだろうか。
心配そうに見ると、彼が耳元で大丈夫、と囁いた。
普段は聞いたことのない甘い声に、少し頬が熱くなる。
彼の手が残ったズボンも取り去ると、肌が冷たい空気に触れて落ち着かない気持ちになる。
「寒いですか?」
「ん、大丈夫、だ。でも……」
「はい?」
「くっついて、くれ」
「……はい」
彼がシーツを持ち上げると、肩に掛けて覆いかぶさって来る。口付けると、彼の手が下に触れた。
「ん……んん……」
彼の手が器用にそこを刺激する。気持ちがよくて、合わせた唇の間から甘い息が漏れる。
「……はあっ」
唇が離れると、ふうっと息を吐く。彼は胸、そしておへそのあたりに口付けたかと思うと、不意に口にそれを含まれてびくりとした。
彼の口内は熱くて、ねっとりと舌で舐められると、腰が震える。そのままじゅっじゅっと吸い上げられてびくびくと震えた。
「だめ、だ、クリアっ!」
最近そのような事をしていなかったから。すぐにも達しそうになるのに慌ててクリアを止めようと髪に触れたが、力が入らずにくしゃくしゃと掻き混ぜてしまう。
べろりと舐められて、そして強く吸い上げられると、堪らず彼の口内に吐き出してしまった。
「……っ! はあ、はあ……」
びくり、と体が震えて、そしてくたりと力が抜ける。彼の手のひらが宥めるようにやさしく膝を撫でた。
「……ごめん、クリア……!」
思わず謝ったが、彼の舌があらぬ所に触れてまた体を強張らせた。
口内に放ってしまったものをそこに塗りつけているようだった。
「ちょ、クリア……!」
そして慌てる俺を少しも気にしないように、指がそこに触れる。濡れているらしきそこは、ゆっくりと出し入れされるクリアの指を少しづつ飲み込んでゆく。
「……っ!」
そしてまた少し舐められて、ぬめりを纏って、奥へ奥へと入ってゆく。
くちゅくちゅと音がして、恥ずかしさに顔を背ける。指がまた増やされたようで、圧迫感がすごい。首をふるふると振ると、彼がそっと名を呼ぶ。
「蒼葉さん……」
「……」
「力抜いてください」
「……ん」
なるべくそうするように心がける。彼の指が体内で動いているのが解って恥ずかしさに身を捩る。すると彼の指先にびり、とした感覚を感じた。
「あっ!」
少し高い声が漏れて、思わず顔を逸らす。彼はその反応があったところに指を滑らせる。その度に甘い疼きが沸き起こって、思わず身を捩る。そうしているうちに、彼の指を何本も奥まで飲み込んだ。
ずるりと指を抜かれると、その喪失感に甘い声が漏れる。それが恥ずかしくて体を強張らせたが、クリアが起き上がるとそっと頬を撫でてくれる。
そして足を持ち上げると、後ろに熱を宛がった。頬にクリアの唇が触れて、ようやくそっと目を開けた。クリアが心配そうにこちらを見ている。
「クリア……」
彼を見つめて、そして覗き込む首に腕を回すと、そっと口付ける。
「ん……」
彼の熱がじわり、と体内に入り込んで来る。ぐい、と押し広げられる感覚。熱くて、少し痛くて、だけれど、気持ちいい。
じわじわと進む熱に、唇から声が漏れる。
「んっ、クリア……熱い」
「……僕もです、蒼葉さんの中、熱い」
返された言葉にかあっとなって、彼を締め付けてしまったようで、彼がんっと甘い声を漏らす。
そしてまた口付ける。奥まで入り込んだ彼が、身じろぐと痺れる所を擦った。それに思わず腰が動いてしまったのを気付かれ、ゆっくり律動を開始される。
最初はゆっくりと、そして徐々に早く。段々早くなる揺さぶられる速度に、彼にしがみつく。
「あっ、ああ……っ!」
気持ちのいい所を擦られるたびに、もう抑えられない甘い声が漏れる。
ぎゅうと彼に抱きつくと、そのまま押し上げられるように達した。