魔法使いと夜



そうしてあれこれと説明して貰うと、いつの間にかすっかり体が冷えてしまったので、リビングに戻ってもう一度お茶をすることにした。
コポコポと注がれる紅茶がいい香りだ。先ほど倉庫から出る時にクリアが持ってきてくれたものだった。クリアによると、この紅茶はミルクティ向きだと言うことで、ミルクパウダーと砂糖をたっぷりと注がれた。
「どうぞ」
「ん、おいしい」
一口くちにしてそう告げると、クリアは嬉しそうだった。しかしその表情はわからない。その仮面のこと、訊いてもいいのだろうか。しかし。
「クリアはどうして……こんなところに住んでいるんだ?」
少し迷って口にした言葉は、そのようなものだった。徐々に、訊けたらいいなとは思う。
「そうですね、話すと少し長いですが…簡単に言うと、僕はここに先ほどおはなしに出た「おじいさん」と住んでいたのです」
「そうなのか」
「はい。おじいさんは街で働いていて研究をしている人だったそうです。でも、行くところがない僕を拾ってここに連れてきてくれて、一緒に暮らしてくれました」
「そうなのか」
「おじいさんとの暮らしはのんびりと穏やかなものでした。でも、先ほどお話しした通り、おじいさんは年を取ってしまって……もう大分前に、いなくなりました」
彼のいなくなった、という言葉はシンとした響きを持っていて、それはここを去ったという意味ではないのだろうと解った。
「……悪いことを聞いてごめんな」
「いえ、大丈夫ですよ」
クリアがふるふると頭を振って見せる。
「えっと、じゃあ、ここを離れようとは思わないのか?」
「なぜです?」
きょとんとした様子でクリアが答える。
「ここは、ちょっとさみしいところかな……と思って。ごめんな」
「いえ、謝ることはありません。そうですね、ここはさみしい。でも、僕はこれでいいんです。誰かと会うのは、かなしみが増えるからきらいです」
「……」
クリアは、おじいさんとのことを忘れられないんじゃないんだろうか。ふとそんな風に思った。誰よりも、こんな見ず知らずの俺にもやさしいクリアは多分、おじいさんとの別れが悲しすぎたんじゃないかと、なんだか勝手にそんな風に思った。そして何故か、おこがましいかもしれないが、彼を放っておけないとも。
「蒼葉さんもどうぞ、十分あたたまってごはんを食べて、元気を取り戻したら旅を続けるといいですよ」
「……クリア」
「はい」
「俺、実は行くところがなくて…しばらくここにいても、いいか?」
クリアはその言葉を少し考えているようだったが、すぐにふっと少し笑ってくれたようだった。
「……そうですか。では、どうぞお好きなだけいてください。僕はあなたのために目覚めたのですから」
「……?」
その言葉の意味は正直掴み損ねたのだけれど、なんとなく聞き返すことは躊躇われた。