とりのうた。



「マルコ?マルコー?」
「マル…」


まだ朝早い甲板の上。
昇り始めた太陽の前に立つ彼のシルエットがくっきりと美しい。
その伸ばした腕に、肩に、たくさんの鳥が止まってせわしなく囀っていた。
「……」
鳥がまたひらりと一羽その掌に舞い降りる。
自分も、あの小鳥の一羽のようなものなんだと思う。

あの時。
あの彼の青い炎を心底美しいと思った。
自分の炎とは違う、殺さない、燃えつくさない、美しい再生の炎。

「……エース?」
じっと見つめていると、気配に気づいていたのだろう、彼が少し振り向いて名を呼んだ。

「……おはよ」
「……珍しいな、こんな時間に」
「……」
「こっちに来ればいいよい」
「……ん」
答えないでいると彼が手まねきをした。その反動で鳥が数羽飛び立つ。自分が近づくと残りの鳥達も一斉に飛び去ち、空高く舞い上がった。
「……ごめん」
「なんで謝る」
「……邪魔、しちまったし」
「……別に何もしてねえよい」
そう告げると彼がまた海を見つめる。
その横顔を見ていると、なぜか胸が痛い。
「……俺も、小鳥みてぇなもんだな」
思わずそう口にして、はっとしてすぐさま後悔した。
しまったという顔をしたのだろうか、振り向いた彼がじっとこちらを見た。
女々しい自分が恥ずかしくなり思わず背を向け、そのまま船内に戻ろうと足を踏み出したが、その腕を不意に引かれて腕に抱きこまれ瞠目した。
「……ちょ」
背中から抱きしめられてその顔が見えない。ただ、胸に回された腕が、触れている所が、酷く熱い。
「……おまえは鳥とはちがうよい」
耳元で彼が小さく呟く。
「……」
「……鳥は俺だし」
少し軽くなった彼の声にふっと息を吐いた。その声に少し軽い気持ちになる。
「何言ってんだ、マルコ」
軽く返して笑って顔を上げたら、しかし思いの外彼の顔が近くて真剣で、またどきりとした。
そして、そのまま、軽く唇が触れて離れた。
「……!」
「……ま、こういうことだ」
「それって……」

――好きってことなのか?

言葉は声にならなかった。


頬が顔が燃えているみたいに熱い。
それ以上彼は何も言おうとしなかったし、
そんなことは恥ずかしくてとても聞けそうになんてなかった。