みどりのきのしたで
終業式の前日も、前々日も、そのさらに前の日も、マルコ先生は忙しそうにしていた。
教師は皆一様に忙しなくしていて、終業式に向けて、準備することがたくさんあるのはわかった。
邪魔をする気にはなれなくて、おとなしく家に帰ったけれど、やっぱりなんだかさみしいなぁと思っていた。
終業式が終わり、国語準備室に赴いたが、マルコ先生の姿はなかった。
もう、一週間くらいちゃんと会っていないんじゃないだろうか。
会うといっても、一緒にプリントの準備をしたり、写真を整理したりと、ごく普通のことだけだったけれど。
それでも一緒にいれるということが、何よりうれしかった。
あたたかい缶の紅茶を手に、なんとなくぶらぶらと中庭に出た。
午後の日差しは暖かかったが、空気はぴんと澄んでいて冷たかった。
深い緑色の針葉樹の影を歩いて、いつものベンチに向かう。
足元でかさかさと枯葉が鳴った。
ベンチの手前で思わず立ち止まる。
そのお気に入りのベンチは、もともとはマルコ先生のお気に入りの場所で、偶然見つけて一緒に来るようになったとこだ。
どきりとして、そしてゆっくりと足音を立てないようになるべく静かに近づく。
起こさないように、そう思ったのだけれど、少しの物音では彼はぴくりとも動かなかった。
ベンチの前に立って、じっと見つめる。
マルコ先生が、ベンチに横になって眠っていた。
ものすごく珍しい。
いや、眠っている姿なんて、初めて見たんじゃないだろうか。
すうとしゃがんで、先生の顔をじっと見た。
少し疲れた顔。
コートはちゃんと着てて、マフラーも巻いてる。
寒くはないのかな。
ほんの少しのうたたねのような。
閉じられた瞼の下、あの綺麗な青い目を思った。
すうと顔を近づけて、少しだけ震えるくちびるを、彼のそれに重ねた。
そしてすぐに離れると、ぱっと立ち上がって、慌てて駆け去る。
酷くどきどきと心臓が鳴った。
先生は気付いてしまっただろうか。
いやきっと大丈夫。
でも。
胸の中で相反する感情が綯い交ぜになる。
どうか、
気付いて
気付かないで