おまつり




立ち寄った港では、丁度祭りが行われていた。

途中、海域の荒れにより予定よりも随分と遅い寄港となってしまい、既にその日は市場が閉まっていたことから、急遽この島で一泊することとなった。
急に降って湧いた島での休暇に、皆楽しげにさざめき立つ。そうして皆思い思いに食事や酒などを求めて島の中に散って行った。
マルコを誘って島の港近くにある食堂で早めの夕食をとると、徐々に混みだした店内に場所を変えようとマルコが言うので、素直にそれに従い表に出た。

少し大きめの港であるその街は、どうやら丁度お祭りであったらしく、色々な飾り付けが目に入る。
「おお、マルコあれすげえ!」
初めて目にするカラフルな飾りに、珍しい屋台に、着飾った街の人々に、きょろきょろすると、マルコが歩いて行くのが目に入る。
「待てって、マルコ!」
慌てて追いついては見たが、やはり視線は落ち着かないままだ。
「あ、あれ食べたい!あっちも!」
マルコの袖を引いて屋台の食べ物を買い求めると、また歩き出す。
肉を挟んだこってりとしたパンと、綺麗な色の果物と、串に刺した丸い餅を両手いっぱいに持ってなんとなくふらふらと目的もなく歩いた。
「マルコ、これうめえよ」
「いらねえよい」
なんとなく串を差し出してみたが、にべもなく断られる。
「うまいのに」
文句を言いつつ、しかし歩きながら全てぺろりと食べ終わると、マルコがふと振り向いた。そして歩む先を変えた。

なんとなくそのままその後を着いていくと、広めの通りに出た。
メインストリートらしきそこは、鮮やかな色をした提灯が通りの頭上にたくさん掲げられ、薄く暮れていくほのかに光を残した空に、灯りだしたそれは、大層な美しさであった。
「すごい…綺麗だ」
そう告げながら、思わず息を飲む。
「だな」
ざわざわと人が行き交う。これを目当てに来たのだろう。この通りは一際人が多い。だけれど、それも納得の美しさだ。
何事か話しながら皆、楽しげに指さしたりカメラを向けたりと空を見上げている。
「マルコ…これ、知ってたのか?」
思わずそう問うと、彼がさらりと答える。
「ああ、さっき料理屋で聞いたんでねい」
「え、そうなのか!気付かなかった!」
「まあ、おまえは料理に夢中なようだったからな…」
「すごい、マルコすごいな!」
一緒に見たいと思ってくれたのだろうか。
嬉しくて楽しくて、もっとよく見ようときょろきょろと辺りを見回す。
色んな形の提灯がある。路地の脇には動物を模したランプのオブジェが置かれている。
狭い通りはとにかく人でいっぱいで、見通せないのも手伝って少しうろうろと移動しながら辺りを伺っていると、ぎゅっと不意に手を握られた。
「…はぐれるよい」
「えっと…?」
普段、人が多い場所で触れようとすると、人に見られるからと強く断られることが多い。
まあ、男同士なのだし仕方がない事だろうと解っている。
だから、不思議に思って思わずじっと顔を見ると、マルコがその視線に気づいてこちらを見た。そしてふっと笑った。
「みんな空ばっかり見上げてんだ。誰も見てねえよい」
どきりとした。
珍しい、珍しいと思った。けれど。
「…うん」

その言葉が嬉しくて、思わず握った手にぎゅっと力を込めた。