黑猫寫眞館

黑猫寫眞館〔20〕

目が覚めると、髪を撫でる感触にふっと笑った。
彼の腕にゆるりと抱かれているのが解る。そうしてゆっくりと後頭部あたりに触れるてのひら。
数度瞬きすると、ゆっくりと目を開いた。
「おはよう、マルコ」
「ああ、おはようエース」
「……起きてたのか？暇だったんじゃねえ？」
「いや……壁に貼ってある写真を見てたよい」
「ああ……」
「どれもおまえが撮ったものか？」
「んー、大体そうかな」
「人物と風景がごちゃまぜだな」
「ああ、風景も撮るぜ。でも、人を撮ることの方が多いかな、写真館だし。ここの仕事は元々記念写真とか多くて。サボはそういうの得意だったし……俺もなんとなく」
「サボが？」
「うん、サボはさ、いっつも言ってた。今日はすごい素敵な日ですよ、ってお客さんに。そしたらみんな笑顔になるんだよ。俺はまだそういうの……上手じゃねえけど。でもそういうのっていいじゃん。皆で楽しく写真を撮って、それがいい日とか、さ」
「……うん」
「俺はやっぱり……写真を撮って、誰かが喜んでくれるのが……好きなんだ」
そう告げてにこりと笑うと、彼もふっと笑ってくれた。
「どう言う手順で撮るんだ？」
「んー、なんだろう。写真機を覗いて、相手のいいところを探すんだ」
「いいところ？」
「ん。少し話したりして。あ、笑顔がいいなとか、こっちから見た表情が素敵だなとか。話すのは得意じゃねえけど……なんとなくだんだん話せるようになったよ。そうやって、丁寧にきちんと撮って、それを見た相手が喜んでくれたら、俺も嬉しいし。ばしばしたくさんは撮らないで、大事なところだけ切り取る感じかな」
「ふうん」
「ん」
彼の手のひらがさらりと髪を撫でる。気持ち良くて目を細めると、彼がそっと呟いた。
「お前が撮った俺の写真、くれるかよい？」
ぱっと目を見開くと、彼がふっと笑った。
「……うん」
むくりと起き上がると、カバンをずりずりと引き寄せる。少し腰が鈍く痛い。
庇うように動いたのが解ったのか、腰にぺたりと手のひらがあてられた。
「大丈夫か？」
「大丈夫、だから、あっちむけよ！」
乱暴にそう告げると、彼が少し首を傾げる。体で隠すようにカバンの中から財布を取り出すと、その中に大事にしまっていた、彼の写真をそっと抜いた。
再びぽいとカバンを床に投げると、くるりと彼の方を向き直った。
「はい」
手渡すと、彼がそれを手に取る。
「……ありがとよい」
彼がまじまじとその写真を見た。
正直、ばれてはいたが隠し撮りであるし、いい写真、とは言えないかもしれない。だけれど彼が写っているというだけで、自分には大事だったけれど。
彼が顔を上げるとにこりと笑った。手を伸べて、そっとその胸に抱き寄せられる。素直に体を預けると、よしよしと髪を撫でられた。
「……いい写真だよい」
「そんなことは……」
「その財布にはまた、同じ写真を入れてくれるんだろい？」
「……！」
続けられた言葉に、頬が熱くなる。思わず怒鳴ってしまおうかと思ったが、彼の笑った顔を見ると、そんな気は綺麗に失せた。
「いいだろい？」
「……ん」
そしてそっと頷くと、彼が笑って、やさしくキスをしてくれた。