Happy New You
モビーの船内は宴の真っ最中だった。 新年はめでたいというオヤジの一言によって、もう何年もこんな風に年を過ごしているそうだ。 イゾウがあれこれ指南してくれたワノ国の行事も織り交ぜて、それはそれは派手に執り行われるらしい。
「あれ…」 エースはきょろりと頭を振った。 皆と酒を酌み交わしている隙に、視界の端に入れていた筈のマルコの姿が見えなくなっていたのだ。 「なあ、サッチ、明日まであとどのくらい?」 隣にいるサッチに問いかける。 「あぁ?時間ってことか?」 「うん」 こくりと頷くとサッチがめんどくさそうにポケットから懐中時計を取り出す。 「んー…あと30分くらいか?」 「サンキュ」 「あ、ちょっとエース…」 どこに行くんだ、という声を背中に聞いた気がするけれど、聞こえない振りで人の間をすり抜けて駆け出す。 マルコは恋人だ。そして、新年一番初めに彼に挨拶をするのは自分がいいと思っていた。新年ってだけじゃない。だって明日は自分に取って。そこまで考えると少し恥ずかしくなってぶんぶんと頭を振った。そしてまた歩き出す。 あの目立つ頭だ、すぐに見つかると思った目論みは外れて、船内を一周したけれど彼を見つけることは出来なかった。 少し肩を落としてまた宴会で賑わう食堂に入ると、ぐいと腕を引かれた。 「あ、サッチ」 「あ、じゃねえよ末っ子」 「ごめんごめん、ちょっとな」 笑って誤魔化そうとしたが、彼にべしっと頭をぶたれてしまった。 「いたっ!」 「早合点してんじゃねーぞ」 「なんだよ…いてえな」 頭を撫でながら睨んだが、彼にニヤリと笑われて思わずむっとした。 「あいつなら…あそこだ」 「え?」 意味が解らず問い返すと、彼が小声で告げた。 「マルコは見張り台だ。あいつは毎年当番を代わってあそこで新年を迎えるぜ」 「えっ…」 「早く行ってやんな」 「ありがとう、サッチ」 言うが早いか慌てて駆け出す。 「あいつを頼むぜ、末っ子」 サッチの呟きはエースの耳には入らなかったけれど、それは大丈夫だろうと確認したサッチはまた宴に戻って行った。
「ほええ」 思わず叫ぶと、その鳥は嫌そうな顔でこちらを見た。 長い長い梯子を上って見張り台に辿りつくと、青く光る鳥がそこにいたのだ。 「マルコ?」 思わず名を呼ぶと、鳥は小さく溜息をついてどろんと人型に戻った。そして手招きをする。 「…ん」 見張り台に上がり傍に寄ると、隣をぽんぽんと示されたので、素直に並んで座る。彼が落ちていた毛布を拾うと、それにふたりでくるまった。 「…寒いから鳥の方が楽なんだよい」 彼がぽつりと告げた言葉に少し申し訳ない気持ちになる。 「…ごめん」 「いいよい、おまえあったかいからねい」 そう告げるとぐいと肩を抱き寄せてられて毛布の中で密着する。思わずふふっと笑った。 「…なんだそれ、カイロじゃねえぞ」 そう告げると彼も少し笑った。 「似たようなもんだよい」 「…もうすぐ新年だって」 「…あぁ、そうだねい」 「…マルコはなんで、いつもここで…」 その時、遠くで誰かが叫んだ声が聞こえた。 「年が明けたぞ!」 はっと顔を上げると、ぐい、と不意に抱き寄せられてバランスを崩す。頬に手が添えられたと思うと、唇が重なっていた。 「…っ」 すぐに顔が離れると、間近で彼と見詰め合った。 口付けは初めてじゃない。もっと色んなことだってしている。だって恋人だ。 だけれど、こんな風に仕事の最中に何かをするのは初めてじゃないだろうか。思わず頬が熱くなる。 「…誕生日おめでとう、エース」 「え…」 「誰かと過ごすのは久々だよい。こんな新年もいいな」 思わず目を見開くと、彼の唇がまた触れた。今度は長く触れ、舌を舐められ少し唇を開くとぬるりと舌が入り込んで来る。 「ん…っ」 激しく口内を舐められ、唾液がつうと口の端から伝った。少し彼の顔が離れたかと思うと、軽く触れて離れた。 口の端を指で拭われたが、息がすっかり上がってしまっていた。つうと頬に指先が触れた。 「…顔、赤いよい」 彼がからかうように告げる。 「なっ、マルコのせいだろ!」 「だねい」 あっさりと返されて思わず眉を寄せる。すると彼がふふっと笑った。 そして今度は手のひらでやさしく頬に触れた。 「これ以上、今ここでするわけにはいかねえだろい?」 「…なっ」 「続きは部屋でな?」 「…」 「だめかよい?」 「…やさしくしろよ」 「いつも優しいだろい?」
思わずむっと睨むと、やさしくやさしく口付けられた。
エースHappyBrthday!おめでたいです!
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