クリスマスについて。
いつもの国語準備室で、漸く先生とふたりきりになれた。
21日の今日は、いわゆる終業式前の最後の登校日というやつで、
テストの結果について、進路について、と入れ替わり立ち替わり質問にやってくる生徒と先生が話すのを、少し離れた所でパイプ椅子に座って、そしらぬ振りをして携帯の画面を見ていた。
そうして一時間以上、携帯の充電も危うくなってきた頃、ようやく最後まで先生の携帯番号を聞き出そうと頑張っていた生徒が、諦めて出て行った。
ふたりきりになり、急にシンとした辺りに、なんだか少し落ち着かなくなって顔を上げた。
先生はふうっと息を吐くと、棚からカップを取り出すところだった。
窓から射し込む光は、もう大分赤が強くなって来ていて、もうすぐ夜が来ることを示しているようだった。
「エース、茶飲むかよい?」
そう告げて、先生が少し笑った。
「…うん」
それだけ答えると、また無言になり室内に静寂が満ちる。だけれど先生が笑ってくれたからか、今度はその静けさにすこしほっとした。
先生がポットから湯を注ぐこぽこぽとした音と、時折茶器に触れるかちゃりと少し高い音が心地いいと思った。
「…はい」
先生がそう告げて、カップを差し出す。
好きな高さの声だ、と思う。落ち着いて、少し低い。先生の声。
「ありがと」
短く言って笑って、カップを受け取る。
ひとくち飲むと、暖かいものがお腹に落ちてゆく感じが気持ちよかった。少しわらうと、先生がなんだよい?と問うて来た。
少し考えて、答えになってはいない問いを返す。ずっと、聞きたかったこと。だけれど、聞けなかったこと。なるべくさらりと。
「クリスマスの予定とかって、先生は…」
そこまで言っては見たものの、続きを口するのは躊躇われ、思わず黙ってしまった。
「…24日か?」
先生がふとカレンダーを見て、低く問い返してきた。
頷いて、つられてカレンダーに視線をやって、そしてふとあることに気付く。
「…24日は、先生は次の日学校だよな?」
「…ああ、おまえもだろい?」
こくりと頷く。おそらくそれに続く言葉は、おそらく否定的な意味になるだろうと悟って、しょんぼりした気持ちになる。
だけれど、続けられた言葉は予想外なものだった。
「24日は夜ゆっくりできないから、23日においで」
その言葉に胸がどくんと鳴った。一瞬信じられなくて、少し遅れて返事を返す。
「…うん!」
そして笑うと、彼のてのひらが髪をくしゃりと撫でた。
「泊まる用意して来いよい」
「……え」
どういう意味だろうと思って顔を上げて先生を見たが、先生は少し笑っただけだった。
それ以上問うことは出来そうになくて、ただ、胸がどきどきとしていた。