魔法使いと夜
クリアの部屋に入るのは初めてだった。クリアの部屋は俺がいた部屋と同じくやはりこじんまりとしていて、だけれどキラキラと透き通った硝子の壜がたくさん置いてあって、少し驚いた。それを問うと、きらきらしたものが好きなのだ、と少し照れて答えた。
そうして一緒にベッドに入った。辺りはシンと静かだった。なんとなく手を伸べて繋ぐと、彼は少しびくりとした後、ぎゅうっと握り返してくれた。
そして、静かな声で話し始めた。
「おじいさんが眠ってしまった後、僕も眠るようにいいつけられていました。僕は命を絶つことはできません。だから、ベッドで永遠の眠りにつきました。でも、それは永遠のものにはならなかった。僕は、あなたの声で目覚めました。あなたの声は、おそらくTOUEの研究によるもので、その声に僕は反応したんです。でもあなたはTOUEではなかった。それは一目で解った。でも僕は、ひとめで、あなたに惹かれたんです。なぜでしょう、理由はわかりません」
「……それは、声じゃなくて?」
「目覚めたのはその声ですが、惹かれたのは声じゃないんです! 僕はただ……あなたの傍にいたいと思った。だから起き続けることを決意しました。あなたとの日々は、短かったけれど、とてもきらきらしていました。毎日が楽しくて、あなたがいることが嬉しくて、眠ってしまうことさえ、惜しいと思っていました」
「俺もだよ」
そう答えると、クリアは笑ったようだった。
「蒼葉さんを助けたようでいて、助けられたのは僕だったんです。あの日からずっと、僕はこの世にいることができてうれしいと思っている」
「……」
少し寝返りを打ってクリアのほうを向くと、彼もおずおずとこちらを向いてくれた。
「ねえ、蒼葉さん。僕はつくりものです。だから、僕の顔が綺麗だとしても、それは当たり前のことなんです」
少し考えて、答える。
「……なあクリア。クリアはそう言うけれど、クリアだってその顔を自分で選んだわけじゃないんだろう?俺たちだって、自分の顔なんて選べねえ、だからそれはきっと、かみさまのくれたものなんだよ」
彼ははっとした顔をして、そして少し震える声で告げた。
「蒼葉さんは、すごい」
「……」
「蒼葉さんは、僕の魔法使いです。蒼葉さんは、いつも僕を人間にしてくれる」
その嬉しそうな様子に、思わず胸がつまって泣いてしまいそうで。何も言えなくて、その髪をゆっくりと撫でた。彼が愛しそうに少し目を細める。
「何かを愛しいと思うことはむつかしいことじゃないのだと、蒼葉さんが教えてくれました。僕も……蒼葉さんに触れても、いいですか」
「……いいよ」
繰り返される赦しを請う問いは、いつも彼を不安な顔にさせている。だけれどそれを赦すと彼は笑うのだ。
その笑顔が、なによりも好きだと思った。
その髪に触れて、頬に触れて、そっと口付けると、彼の手が伸びてきて肌に触れた。
おそるおそると触れる手に、少し笑うと、彼も困ったように笑う。
するりと服が取りさられると、彼も脱いで床に落として行く。そして、漸く裸で抱き合うと、その暖かさにほっとした。
抱き合って口付けながら、彼の手のひらがさらりと肌を撫でていく。口からずれた唇が、頬に触れ、首に触れ、そして胸に触れる。
べろりと舌で舐められると、腰の辺りにじんわりと快楽が溜まっていくような感じがする。
臍の窪みも丁寧に舐められて、くすぐったさに身を捩ると、不意打ちで自身を口に含まれる。
「……っ!」
そして休む間も無く、舌でべろりと舐められる。
「んっ……はあ」
両手で大事に触れられると、前回の彼の腕を心配していたことを少し思い出す。
すると、太ももあたりに唇が触れて、きゅっと痛みが走った。跡を、つけられたのだろうか。
「クリア……っ」
「蒼葉さん、他所事は禁止ですよ?」
「俺は……クリアの両手使えていいなって……」
そう答えると、クリアがやさしく太ももを撫でてくれた。
「ごめんなさい、つい嫉妬してしまいました」
「……いいよ。てかお前もそんなこと考えるのな」
「……僕は嫉妬深いですよ? きっと」
「……そうなのか」
「はい、でも、その分大事に大事にしますから……赦してくださいね」
「……うん」
恥ずかしさも半分で、小さくそう答えると、彼がまた丁寧に自身を舐める。そして口内にじゅっと入れられると、その熱さと気持ちとよさに腰が震えた。
じゅっ、じゅっと出し入れされる。その気持ちよさに気を取られているうちに、舐めたのだろうか、濡れた指が後ろに入り込んで来ていた。
「……んっ!」
奥に奥にと進む指が、気持ちの良いところを正確に撫でる。強すぎない絶妙な力で、だけれど真ん中は外して周りを刺激されると、そのもどかしさに腰を揺らめかせてしまう。
「蒼葉さん、物足りないですか?」
「……ん、クリア」
「どうですか?」
「……」
思わずきっとにらんだが、彼は少し笑っただけだった。でもその頬が赤くて、彼も興奮しているのだろうかと思う。
思わず起き上がると、彼に乗り上げる。彼は不意を打たれたようで、びっくりした顔のまま、とすんとベッドに横になる。その足の間に座ると、おかえしだとばかりに彼をべろりと舐めた。
「……っ!」
彼が体を固くする。構わずそのまま口に含むと、舌を使って舐める。それはもう十分に育っていて、苦しいくらいの大きさだった。顔を動かして、出し入れをすると、彼がはあ、と甘い息を吐く。気をよくして、じゅっと吸い上げると、ぎゅっと腕を掴まれた。
えっと顔を上げると、彼の手にぐい、と持ち上げられて、簡単にひっくり返された。
「煽ったりして……だめです、蒼葉さん」
「なんで?」
お互い息が少し荒い。だけれど、俺に気持ちよくなってくれていることは素直に嬉しかった。
「酷いこと、してしまう」
「いいよ、来いよ」
「……」
彼が困ったように眉を下げて笑うと、そっと口付けた。
そして足を持ち上げると、確かめるように後ろに触れる。そしてそこに彼が宛がわれる。
先ほどまで口に含んでいたからだろうか、十分に濡れていて、じわりと入り込んで来る。先ほどの奥に感じたびりびりとした感覚を思い出して、彼の背をぎゅっと抱きしめる。
「クリア、早く……」
「蒼葉さん」
そして十分に解れていたそこを、ぐっと一気に貫かれた。それはびりっとあの場所を擦って、そして目の前が白くなるようなきもちよさだった。
「……ああっ!」
思わず声を上げると、ぐっと口付けられる。そのまま強く出し入れされると、気持ちよさにぴん、とつま先が伸びた。彼が腰を打ちつける度に、体の奥がびりびりと痺れるように気持ちいい。高い声が止まらず漏れてしまう。それら全てが気持ちよさに包まれて、曖昧になる。彼の背を抱く指に力が入る。
クリアが髪に口付ける。それさえも、ただただ気持ちよくて、彼をぎゅうと締め付けると、中で彼の形を感じる。
それに奥を貫かれて、はっと息を吸うと、あっという間に達した。
もぞりと身じろぐと、辺りが薄く明るくなっている事に気付いた。腰がうずくように少し痛い。
まだ二回目だというのに、思い切り彼を受け入れたからだろうと思うと、少し頬が熱くなる。
顔を上げてあたりを伺うと、どうやらそろそろ夜明けのようだった。空気がぴんと冷たい。
クリアを見ると、目を閉じて、すうすうと眠っているようだった。その初めてみる寝顔は、なんだか幼くあどけなくて。胸が少し高揚するような気持ちがした。
体の様子は少し腰が痛いだけで、どこも濡れている感じも、気持ち悪い感じもしない。途中で意識を飛ばしてしまったようだが、彼が綺麗にしてくれたのだろうか。それは少し恥ずかしい。
彼は未だ、すうすうと穏やかに眠っていた。その寝顔を、ただ愛しい、と思う。
腰辺りに回された彼の手のひらがじわりと暖かい。いつまでか解らないけれども、赦す限り彼と居たいと思った。
少しあくびをすると、おやすみと告げて。
その寝顔に、そっと口付けた。
【END】